最悪だった『ちいさな独裁者』

戦争映画といえば、前に見たのでうろ覚えですが、プライベート・ライアンが印象に残っています。冒頭30分くらいの笑っちゃうくらい簡単に人が死んでしまう戦闘シーンや、最後、助けた捕虜に仲間が殺されてそいつをまた自分が殺すシーンが戦争のリアルって感じでしょうか。戦争は必要だいや駄目だというメッセージを発するのではなく現実を淡々と映し出していく。それでも狙撃の名手や男気ある登場人物が話を見せるので、この映画がヒットしたのも納得できます。

プライベート・ライアンで描かれた特殊ミッションは実話らしいのですが、同じ特殊ミッションもの戦争映画という点で似ていると勝手に思ったのは地獄の黙示録です。こっちはもっとドキドキ・ワクワクさせてくれます。でも途中から戦争というかアメリカの?矛盾をついてきてドロドロしてきます。プライベート・ライアンよりは後味が悪く見終わったあとに考え込んでしまいましたが、こっちの方が好みでした。が、二十歳くらいのときに見たのでちゃんと理解できていないと思います。

 

で、先日見たのがちいさな独裁者です。

 

この映画は最悪ですよ。気分が悪くなります。そもそも私は小心者なので、バレそうな嘘をつき続ける主人公の立場でいることが心臓によくなかったです。そしてその詐欺師に対峙するなんでも見透かしていそうな肝の座った男たち。どうしたらああいう百戦錬磨の表情が作れるんですかね。たまーに繁華街で如何にも気質じゃないトッポイ男を見ることがあるけど、あの顔になるまでにどういう人生を歩んできたのだろうか。

話を戻して最悪なんですよこの映画は。そもそも戦争なんて平和な日本で暮らしてきた私にとって想像できる世界じゃないんですよ。だからこそまあほんの少し戦闘状況下に居る憧れみたいなものがあるんですよ。命を懸ける戦友や家族。そして絶対悪としてのナチスヒットラーゲシュタポなんてあれはもう分かりやす過ぎる悪ですよ。ああいうのが出てくるから戦争なんてやっちゃ駄目で、でも戦争しちゃうからやっぱりああいうのに酷いことされちゃったよ、というのがこれまで私の認識なんですよ。

でもこの映画はそもそも我々が悪だと言ってるんですよ。いや、本当は善人かもしれないけど恐怖を前にしたら簡単に悪に魂を売るんです。売ったところでどうせ無様に殺されるのは分かってますけど。厄介なのはそもそも魂売った感じもしないことですかね。なんかモヤモヤするけど流れに従う感じ。気づいたら仲間殺してたよ。でも殺しきれないからトドメささなきゃっていう。思い出す、あの音が嫌だ。戦争映画にああいう感じのリアルさは求めていなかったんですよ。

だから駄目ですよこういう芯を食う映画を見ちゃ。嘘みたいなストーリーなのに実話ベースだなんて本当に救いがないです。今の世の中いろいろ忖度して、結果誰かは地獄に堕ちるじゃないですか。やっぱり忖度させる人なのか、させられた人なのか、それをワーワー言う人なのか、当然犯人を探すじゃないですか。多分全員に責任があるんじゃないんですかね。ていうか人間だもの誰だって悪はありますよ。そこを責めたって仕方ない。だからきっちりとルールを作って悪を出さないように縛るしかないんです。つまり難しいです。

改めてこの映画は最悪ですよ。分かりやすい悪に対峙する正義の戦争の映画を見てスッキリした方がいいですよ。